仏教史と莫高窟 01 古代インド思想


私たちの祖先がまだ狩猟生活をしていた頃には文明はありませんでした。生肉は保存ができないので常に新鮮な肉が必要です。彼らは食糧を得るために日々狩りを続けなければなりません。

やがて人々は大河のほとりの肥沃な土地で作物を栽培することをおぼえます。保存できる食糧を得たことで彼らの生活にはゆとりができます。物質的、精神的、時間的なゆとりはやがて思想や宗教や学問といったものを生み出 します。こうして人類の文明は大河のほとりから興るのです。


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紀元前20世紀から栄えたインダス文明はやがてより肥沃な土地を求めて、紀元前10世紀頃にはガンジス川流域へと舞台を移しますが、ゆとりから生まれた思想によって人は皮肉なことに多くの苦しみを感じるようになったのです。仏教誕生以前からある古代インドの思想の大きな特徴のひとつが「生きることは苦である」という考え方です。

「生・老・病・死」を四苦といい、
愛する者でもいつか別れがくる苦しみ「愛別離苦(あいべつりく)」
嫌いな人間とも会わなければならない苦しみ「怨憎会苦(おんぞうえく)」
飢えや渇きや痛みなどの苦しみ「五蘊盛苦(ごうんじょうく)」
望みがかなえられない苦しみ「求不得苦(ぐふとくく)」
をあわせたものが四苦八苦です。



もうひとつの特徴は「輪廻転生」で、人間は死ぬのではなく生まれ変わるのだという考え方です。良い行いをすれば来世も人間に、悪い行いをすれば来世は動物や虫に生まれ変わるといったものですが、もし楽天的な人なら、じゃあ良い行いをして来世も人間になればいいじゃないかと思うかもしれません。しかしそれは違います。なぜなら彼らにとって「生きることは苦である」からです。つまり人間であれ虫であれ永遠に続く終わりの無い苦しみの輪のなかにいるということなのです。

どうすればこの苦しみから逃れられるのか?古代インド人に与えられた命題でした。

時は紀元前6~前5世紀頃。当時ガンジス流域に栄えたバラモン教のもとでは、カースト制度の元となる階級社会が際立ち多くの差別が人々の苦しみに輪をかけました。 流域の新興都市では新たな思想家が多くあらわれました。そのなかのひとりにゴータマ・シッダールタもいました。




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